職人からのラブレターソックス誕生物語


はじめまして。

私達はワシオ株式会社で編み機のエンジニアとして働かせていただいている林口🔵と髙橋🔴と申します。会社の中ではぐっちーといっちゃんと呼ばれています!

まずは簡単に私達についてお話させてください。

・自己紹介編


🔴私(いっちゃん)は、結構長めのギャルっぽいネイルをしていて、休みの日は絶対にどこかに出かけ、洋服が好きで、年に何回か仲の良い友達と飲んで騒いでする旅行に行くのが楽しみな割と元気な方かな?って感じの年相応な女の子だと思っています。笑

そんな私が、今現在どうして毎日ほこりや鉄粉を吸い込んで、鼻の中を真っ黒にさせながら、エンジニアとして働いているかとお話すると、私は幼い頃からの夢であったアパレルデザイナーを目指し、高校卒業後、服飾専門学校に通っていましたが、在学中にニット専門のニットコースに入ったことをきっかけに、自分の手で物を作る楽しさや機械編みの魅力、地道な作業を繰り返し、作品が完成した時の達成感、そして、卒業式の時にニットコースの全学年の先生からも怖がられるような厳しい担任の先生の方に髙橋さんが一番ニットコースで優秀だったと称されたことが嬉しくて、そんな尊敬する先生に褒めていただいた物作りの楽しさやニットの知識を忘れていくことが、とても怖くてもったいない気がして、一度はデザイナー兼企画職として就職をしましたが、ニットの物作りがしたいと思い、求職をしていたら、地元である加古川でニット工場があることを知り、自分の手で何もかもできる事にワクワクし、ワシオ株式会社に2023年に就職させていただきました。


 🔵僕(ぐっちー)は、2022年にワシオに新卒で就職をしました。髙橋さんとは違い、僕はめちゃくちゃ文系育ちの人間です。機械なんて触ったこともなければ近くで見たこともなく、幼少期は自然の中でショウリョウバッタを片手で鷲掴みしては母に見せて驚かせていました。

友人と鬼ごっこなどで遊ぶこともありましたが、基本的には家で一人で絵を描いているか、レゴブロックをしているか、ウルトラマンの怪獣のソフビで遊んでいるかの人生でした。ある程度成熟した年になっても、根底の趣味趣向は変わらずに手遊びだったものがキーボードになり、パソコンの画面でモノづくりをして遊んでいました。

大学3回生のコロナ禍、「就活するか...」と死んだメンタルを叩き起こすも、外に出ることができず、誰の助けもない中で、当時は精神的にも不安定で正常な判断ができていませんでした。

就活の為の対策についても、周りが見えなくなっていた僕は、家に籠って自己分析ノートをひたすら書いていました。ノートに向き合っている時間が一番安心できた瞬間だったため、無我夢中でノートに書き込んでいると、自己分析ノートが35冊できたのを覚えています。いろいろと自身の過去と未来に向き合った結果、「やっぱりモノづくりを仕事にしたい」と思うようになりました。正直自己分析以外にもっとやるべきことがあったと思います(ガクチカとか、自己PRの練習とか...)ただ今となっては一番入社したかった会社に入れたのでよかったなと思っています。

モノづくりという漠然とした感情を仕事にしたいと思ったのは、一人遊びメインの人生を生きている中で、母や父に自分が作ったモノをプレゼントしたり、友人に中学高校の工芸の授業で先生にばれないようにこそっと作ったオリジナルのものをプレゼントしたときの反応を見るのが好きだったからだと思います。

求人サイトを見ていると過去の求人にワシオ株式会社がありました。どうやら”もちはだ”という商品を作っている会社らしい...と思ったときに、子供の頃の記憶がフラッシュバックしました。

「”もちはだ”って昔、テレビで千原ジュニアさんがおススメって仰ってたやつ??」

ワシオ株式会社が”もちはだ”を作っていることを知ると同時に、この会社の技術の唯一無二な魅力と、完全に独自のノウハウによってつくられる編機の魅力に一目ぼれし、「ここで働きたい」と思いました。大学のキャリア支援センターに駆け込んでみっちり修行を受けたのち、がちがちに緊張してこわばった顔面を面接で披露した結果、現社長に”内定”を頂きまして、今ここで働かせていただいています。


私達の軽い自己紹介を見ていただいた通り、生い立ちに何かしらの共通点もなく、性格も趣味も真逆で、ワシオでは珍しく年が若く、近いというだけの先輩後輩の関係です笑

そんな私達がどういう経緯で"もちはだ"の新商品「ラブレターソックス」を作ることになったのかを少しだけ長くなるかもしれませんが、この場を借りてお伝えしたいと思います。




・はじめにワシオ株式会社について

ワシオ株式会社は、"もちはだ"という商品を作っています。簡単に説明しますと。靴下編機が昔、日本にやってきて、最終的に庶民の手にも靴下編機がいきわたるのですが、その時の編み機が「B式靴下編機」です(諸説あります)。このB式靴下編機が改良によってK式靴下編機に進化します。めちゃくちゃ簡単に言うと、「BからKになったことで、できなかったことができるようになった」ということです。つまり上位互換です。このK式靴下編機が進化して様々な編機へと変貌を遂げます。

「じゃあ"もちはだ"って何の機械作っているのか?」

"もちはだ"は、みんながK式でワイワイしているなか、なぜかB式靴下編機を引っ張り出して自分好みに改造して「もちもち」した「あったかい」生地を編めるようにしたのが、"もちはだ"の編機の発祥です。

つまり、"もちはだ"の機械はワシオ株式会社にしかなく、この機械を作れる人はワシオ株式会社にしかいない、ワシオ株式会社だけの”ものづくり”がここにはあります。


・なぜ、私達が新商品を作ることになったのか

私達は、機械設備課の職人と呼ばれ、私達を含めた計四人で構成されています。

実は、私達は自分自身のことを職人と呼ぶことも、周りから若手職人だと囃し立てられ、呼ばれることにもすごく違和感があります。

理由は、入社して2年や3年で何をもって職人だ?と思うからです。

確かに機械修理やサンプル作り等も徐々にこなしていって、習得していますし、それをワシオ内でもほぼこの四人しかできないことなので、その点だけを見ると職人だと思われるのかもしれません。

私達には上司がお二人いますが、私達が就職するまでほぼお二人だけでワシオの機械の開発、修理を行いワシオの”ものづくり”を守ってこられました。大ベテラン職人のお二人でさえもワシオの扱うB式編機は、正解やマニュアルがないから20年以上働いていても、まだわからないこともあるとおっしゃっています。

このお二人を前にして自分たちも職人だと胸を張るにはまだまだひよっ子で程遠いです。


そんな思いを胸に日々を過ごしていたら、ある日突然部長の方に私達が呼ばれ、集まると、

🟢部長さん「Makuakeのプロジェクトで今までのワシオにはない全く新しい靴下を二人で作ってほしいねんけど、もろもろの事情で期限は1ヶ月でお願いできない?」

🔵ぐっちー「………!」🔴いっちゃん「………!」


🔵個人的に僕は、部長クラスの方が突然、僕達に声をかけた時点で胸騒ぎはしていました。理由は約一年前、僕が入社してまだ一年もたっていない時に12月の月初めの全体朝礼で現社長から「感謝祭のリーダーを林口君にしてもらいます」と任命されたことです。

当時の僕は、あまりに突然の大仕事を任されたので、自分にできるか不安になったことを覚えています。この時の経験は感謝祭後のMTGで、現社長に報告し次回の改善点として話し合った結果、次の年からは担当者には事前に相談の場が設けられたので一安心したのも覚えています。

感謝祭とは、年に一回ワシオ株式会社が日ごろお世話になっている方々や"もちはだ"をご愛用してくださる方々に感謝を込めて「もちはだ商品」をお手ごろな価格で提供させていただくイベントです。このイベントには毎年1500人超の方々が本社に足を運んでくださります。毎年、本当に感謝しておりますが、こういった経験もあり「なにか任されるんだろうな〜」と思っていたのですがまさか「靴下のプロジェクト」で「期間が1カ月」だとは思いませんでした。


🔴私もこの時の気持ちを改めて振り返ってみると、「い、1ヶ月?まあ無茶を…」という気持ちと、「今までのワシオにはないものとかどんな商品が作れるのだろう!」とワクワク3.4割不安が6.7割でした。

そして、商品を考えるにあたり、突然0から始めてもコンセプトやターゲットにどういう思いで作るかがない状態では良い商品も出来上がらないのは当たり前なので、部長さんとMTGを何度か重ね、私達の新商品開発ストーリーがスタートしました。


・MTG編

商品開発のMTGは私達二人にとって初めての経験でした。


🔵「いろんな案がでるんだろうな~」

と思いながら席に着いた僕は、「どんな靴下を作りたいか?」と聞かれた時、すぐに思考が止まった感覚がありました。

それは「何を作ればいいのだろう?」という疑問と「何が作りたいんだろう?」という疑問でした。

僕は「ものづくりがしたい」という思いでこの会社に入社し二年間ワシオの”ものづくり”に没頭しました。機械に対しての解像度も入社当時に比べて高まり、自身の仕事の選択肢も増えて、「いろいろできるようになったな〜」と慢心に浸っていました。

でもそれは「用意された機械を用いて、既に作られた完成品を作る」という工程をなぞっていただけでした。自ら新しいものを作り出していくという「創造」への挑戦を怠っていたことをヒシヒシと感じました。

部長さんと髙橋さんと話し合う中で、「何を作るか」ではなく「誰のために作るか」、「どんなモノを作りたいか」を考えた方がいいという結論に至りました。

これは、僕自身が何かを作るという「目的」に固執するあまり、「誰のために作りたい」「自分ならどんなモノが欲しい」といったような「創造欲」というモノづくりをするときの原動力に、目を向けられていなかったことに気づかされた瞬間でした。

「モノづくりで人にプレゼントした瞬間と、作っている”過程”を楽しんでいた感情や感動を仕事にしたいと思ってこの会社に入社したはずなのにな~」

と初期の目標からブレたことをしていたなと思い、少し反省しながらMTGをしていました。


🔴まずMTGの最初の質問で、自分が"もちはだ"やワシオで生産される製品を作るうえで最も大事にしていることは?と聞かれ、私自身が大事にしていることと言うよりかは、会社が長年これは守ってきた考えを私も自身で汲み取って守っているだけで、自分がこれだけはと、何か強い意志を持っている認識があまりなく、その中でも改めて考えてみた時に唯一ここからはブレてはだめだろと思っていることが1つありました。

それは、「ワシオでしか作れないもの、技術(起毛)から逸れないこと」

ワシオ内でも誰かと話していると、こういう物もあっていいんじゃない?とアイデアを頂くことがあるのですが、それは果たしてワシオで作るべきものなのか?それをワシオが作ることで価値が上がるのか?ワシオの"もちはだ"の良さを発揮できるのか?と考えるのです。

上記でも説明した通りワシオの歴代職人の方々が守り続けているB式靴下編機や独自の起毛技術がワシオ株式会社の背景やストーリーを支えているのですが、その反面で他社では当たり前にできることがここの機械では難しいことがあるのも事実です。

しかし、じゃあより一層ワシオでしかできない技術、起毛を軸に考えていかなければならないのではないかと思い、改めてそれだけは忘れずに意識しておこうと胸に刻みながらMTGが進んでいきました。


🔵自分自身の「創造欲」に目を向けて改めて、なにが作りたいか?を考えた時に思いついたのは「休日家でゆっくりPCで遊んでいる時に蒸れにくい靴下が欲しいな~」という、めちゃくちゃ自分が使う前提の案でした。でもこの思いつきを「なんでそう思ったのか?」と深堀していくことで、自身が"もちはだ"を使用している中での悩みを言語化することができました。

悩み1/ "もちはだ"の靴下は家で履くとたまに蒸れる

→従来のもちはだソックスの場合、室内では暖かすぎる場合がある。

悩み2 / 家では履くにはちょっと分厚い、もっとリラックスしたい

→従来のもちはだソックスの生地の分厚さだと、人によれば足に圧迫感を感じる場合がある

悩み3 / でも寒い

→やっぱり、"もちはだ"の温かさをもっとリラックスできた状態で享受したい。

といった、僕が日ごろから"もちはだ"を使用しているからこそ出てきた、もちはだソックス使用者としての悩みでした。

そして、同じような悩みをもった人たちにもこれらを解消したソックスを履いてほしいと思いました。

"もちはだ"をもっと快適に過ごしながらも、長所である温かさを維持したい。僕のわがままな欲求は一見無理難題に思えましたが、改めて考えてみると「できるかも?」と思いました。理由は"もちはだ"には「暖かい」以外の長所があるからです。

"もちはだ"は「暖かい」商品です。それは皆さんもご存じだと思いますし、僕自身もこの「暖かい」部分に何度も助けられています。

しかし、"もちはだ"には「暖かい」以外にも長所はあります。それは「なんかめっちゃ伸びる」という部分です。

実は"もちはだ"はとても伸縮性に長けた商品です。実際「もちぴた3」というシリーズはとても伸縮性があり、締めつけないやわらかい着心地のため、産後も着られるマタニティウェアとしてもおすすめの商品です。

つまり伸縮性を出そうと思えば出せるので、圧迫感のないソックスも作ろうと思えば作れるんじゃないかと思いました。

これで「悩み2」は解決するかもしれません。最終的には「悩み3」を解決したいところですが、「悩み1」の"蒸れにくい"を解決する必要があります。

これがラスボスです。"もちはだ"は暖かすぎるあまり、使う環境によっては、蒸れやすいんです。それが生地の分厚さも相まって、「暖かすぎる!」となってしまう状況が定期的に訪れます。

機能面における課題として、これを解決する必要があるのですが、この時はまだ解決できていませんでした。


🔴そうして私達2人ともいろんな考えを巡らせながらMTGを進めていく段階で、私と林口くんは「自分の好きなことは何?」と考える質問があり、ここまでこのnoteを読んでくださっている皆さんもご察しの通り、まあ正反対。

私は基本的に第三者が関わってくる趣味や好きなことが多く、林口くんは1人で行うタイプの趣味が多く、ここまで違うとこれから作りたいものを話していく中で、意見が食い違いすぎるのではないかと少し心配になりました。

しかし不思議なこともあるようで、私は人と関わることが好きな故に人からの視線、見え方を気にして、林口くんは自分と向き合う時間が多いが故にいかに自身が快適に過ごせるかを考え、私は見た目、デザイン面を林口くんは機能面を考えそれがガチッと綺麗にハマったのです。

個人的に、服を選ぶ時は9割見た目・デザインで決めます。TPOにあった服選びでは必ずしも見た目全振りというわけにはいかない時もありますが、ファッションを楽しむためにはデザインほど重要なポイントはないと思っています。

好きなデザイナーさんが作っているから、好きなアイドルが着用していたから、暖かそうだから、楽そうだから、安いからと他にも様々な理由でみなさんも服を選んでいると思いますが、いくら好きなアイドルが着ていても自分の好きなデザインじゃなかったら買いませんし、いくら安くても可愛くなければ買いません。

"もちはだ"の商品がどれほど機能面で優れていて、寒さ知らず、これ一枚で暖かくても、デザインであったり、カラーが好きじゃなかったら、"もちはだ"の機能面の凄さを知る前に手にとっていただけなかったり、実際使ってみないとお金を使う価値が分からず”もちはだ”と出会う機会を失ってしまうのではないか。

「そんなのもったいない!」と思っています。

人の第一印象は視覚情報55%で決まると言われていますから、いかに見た目でも今までの"もちはだ"との違いや他社と比較でき、持っていることを誰かに見せたくなるようなデザインにしたいと思い、私がデザイン面を考えることにしました。

デザイン面を考える時に一番最初に思い出したのは、"もちはだ"の靴下って何回か洗濯したらゴム部分が縮んで、キュって絞られくびれたフォルムになるのですが、"もちはだ"の靴下はかかとがない筒型の製品なので、足に合わせて形が変わっていき最初の真っ直ぐとした"筒型フォルム"から"くびれのあるフォルム"にどんどん変わっていくのが特徴です。でも、ワシオでは各制作現場でも共通の認識として商品としてお客様に提供するときは、見栄えよく靴下を真っ直ぐさせようとするわけですよ。

確かにシワでクシャッとなっているものは製品として出せません、でもあれだけ苦労して真っ直ぐさせようとした靴下はお客様が愛用してくださるほど、どんどん変形していく…

「ん〜…なんか矛盾してない?どんどん変化していく、あのモコってしていて、ゴムの部分でキュってなっていくフォルム可愛くない?

「じゃあ、最初からこの形なら矛盾しないし、変形という形にならずに良くない?!」

となったのです。


MTGを重ねた結果。

私達のように

「クリエイティブなことが好きで、仕事や趣味に拘りがある」が一方で、「きちんと1人の時間も大切な方」

に向け、ワシオの強みである起毛の暖かさを活かしながらも蒸れない独自の機能性も備えた、ワシオの技術や拘りがこの商品を通じて手に取っていただいた方々に共有できるような靴下を作ろう!と決定しました。


以上のことから、私達は自分たちが作りたい靴下の特徴を「機能面」と「見た目」の二つに分けてまとめました

・機能面

1.”蒸れにくさ”と”暖かさ”の共存

・見た目

1.SNSにあげたり人に自慢できるようなデザイン性

2.今までの”もちはだ”にないデザイン、

3.”筒型ソックス”という「もちはだソックス」の特徴を活かしたフォルム


・商品名決定編

MTG最後の課題は「商品名の決定」です。

これまでは、林口くんが「機能面」、髙橋さんが「見た目」といい感じで分担できていましたが、商品名は違います。この商品をどう言語化するか?二人の商品に対する認識を合わせていかなければいけません。


🟢部長さん「名前どうしよっか?」


部長の提案を皮切りに私たちは、頭を捻りました。

びっくりするぐらい何も出てきません。ちょっと思いついた気がしても「なんか違う」と思って頭の中に浮かんだ言葉が消し飛んでいきます。

どうしようもないので、

「どういう思いでこの商品を作りたいと思ったか」

「商品について考えている時なにを思ったか」

と考えることにしました。ここに共通点がありました。それは「このソックスを通して私たちの思いを伝えたい」ということでした。


🔵普段、僕が日常で商品を買うとき、例えば古着だとしましょう。

友人が働いている古着屋さんに入って、大好きなオーバーオールを見ている時、ペンキで汚れたモノもあれば、破れたところをワッペンで補強しているモノもあります。そして明らかに付け足したようなポケットなども見受けられる。

それらの汚れやキズ、デザインは偶発的なものにも感じ取れれば、少し人為的な匂いがするものがあります。友人と「なんでわざわざここ汚すんだろう?」とか「なんでこのワッペン?」とか話しながら選んでいる時。それはその汚れやキズ、デザインを生み出した人がどのような感情だったのだろうか、どんなテンションだったんだろう、とかその時その場所のシチュエーションを想像して、楽しんでいます。

前の持ち主の思いなどを談笑しながら解像度を上げる作業は、一見ただの雑談のようでもありますが、僕にとってはとても価値のあることで、自分が手に取っている商品に「愛着」がわくキッカケにもなります。

「愛着」とは素晴らしいもので、どんなに汚くてどんなに古いものでも、その人にとって”大切なもの”になるのが「愛着」です。

現代は、技術的革新とそれに伴った創造性の革新がびっくりするような速度で進んでいます。「流行に乗る」ことももちろん大切だと思いますし、そこから感じ取れる新しい感覚は自分の価値観や創造性といった基盤を広げてくれると思います。

しかし、どんな流行にも勝てないモノがあると思います。それが「愛着」です。どんなに新しいものがでても、有用なものが出ても「僕はこれがいいんだ!」と真っすぐに頑固になれる商品を僕は作りたいと思って、この商品の魅力を考えていました。

髙橋さんの話を聞く中で、この部分に関しては共通しており、ここに目を向けることが「商品名」を作り出すうえで大切だと思いました。


・商品名の決定

MTGの場でいっちゃんが自身の思いを伝える中で、

「この商品は私たちが思いを伝える「手紙のようなもの」と言った時、「じゃあこれってラブレターじゃない??」となりました。思いを込めて、日ごろ"もちはだ"を愛用してくださるお客様に初めて0からモノづくりをする。これをラブレターとして表現することが私たちのこの商品に対しての表現として最適であると考えました。

さすがに「ラブレターソックス」だと、わけがわかんないので「もちはだ職人のラブレターソックス」と表記することで、"もちはだ"であることをわかりやすく伝えるようにしました。 

ここから私たちの商品開発が具体的にスタートしていきます。


・商品開発編

商品開発を進めていく中で、重要なのは「くびれ」を作ることでした。今回の「ラブレターソックス」の見た目の特徴として上げられる「くびれ」はどうやって作ればいいか?

それに対しての私たちの作戦は二つありました。

1.ゴム糸の使用

2.ドモクの調整


1.から説明します。「ゴム糸」とは文字通り「伸縮性」があるゴムを糸状にしたものです。もちはだソックスではくるぶし部分や土踏まずの部分をゴム糸をいれて編みこむことで、生地が”キュッ”と締まって簡単に脱げないようにしてくれています。このゴム糸を使えばくびれができるのではないかなと思いました。

2.を説明します「度目(ドモク)」とはニットなどの生地の「編み目の度合い」のことです。

手編みで想像してみてください。編むときに力を込めて糸を張りながら編むことで、編み目がキチキチに詰まっていれば、しっかりとした硬い生地になりますし、ゆる~く力を抜いて編みこんでいると、編み目が大きくなり、伸縮性のある柔らかい生地になります。

これを活用することで、くびれのキュっと締まる部分はドモクをキチキチに、ふんわりする部分はドモクをゆる~く編むように機械を切り替える動作を加えることで「くびれ」をうみだせるのではないかと思いました。

ワシオの機械は、切替動作を行うことで、生地の編み方を機械の動作中に変更できます。この切替動作を行えば、くびれの"ふんわり"部分と"キュっと縮む"部分の二種類の生地を編めるようになると考えました。

しかしこれらはまだまだ机上の空論です。実際にできるかわかりません。


・商品開発スタート編

プロジェクトがスタートすることになりましたが、いろいろ諸事情があり、実際に、「ラブレターソックス」を編む機械を開発することに対して、一時的にストップがかかっていました。

よって、実際に機械を開発できる来週になるまで私たちができるのは、

1.蒸れにくい生地を探すこと

2.くびれの作り方の模索


これらを実現するために「使用糸」の模索が必要です。

上記を、既にある「従来のもちはだソックス用機械」をつかってとりあえずいろんな糸を使って生地を編んで模索することにしました。

一応、そのソックス用機械は、生地の種類を途中で切り替えることができる切替動作が2回行われるように開発されていたので、「くびれ」ができるかどうかを確認できる機械ではありました。

ちなみに「ラブレターソックス」ではこの動作を5回行うように開発しています。

手あたり次第、目ぼしい糸を使って編んでいく中で、ゴム糸を入れたり、「ドモク」を調整する中で、若干くびれができている生地が編めるようになりました。

「いけるのでは??」

希望が見え始めた私たちですが、すぐに打ち砕かれました。キッカケは「縮絨(しゅくじゅう)処理」です。

「縮絨(しゅくじゅう)」とは編み終わった生地に高熱の蒸気を当てることで、毛織物やニットの繊維を緻密にして、肉厚で強度の高い生地を作る加工処理です。

熱気が当たった生地はもれなく「キューッと」縮んで肉厚で丈夫になります。

"もちはだ"の商品は必ずこの工程を通り、皆さんのお手元に届きます。

しかしながら、今回の場合は、縮絨の蒸気が私たちの「すこしのくびれ」をことごとく、縮ませて真っすぐなソックスにしていきました。


振り出しに戻った私たちは、試行錯誤を続ける中で、上司の言葉を思い出しました。昔、縮絨加工した生地にも"すごく縮むもの"と"あまり縮まなかったもの"があり上司に何故か尋ねてみると、「ナイロン糸やポリエステル糸といったウラ糸の種類によって縮みの強さが違う」とおっしゃっていたことに気づきました。



・オモテ糸とウラ糸について

"もちはだ"の商品には「オモテ糸」と「ウラ糸」があります。「オモテ糸」とは、生地の表側つまり表面に出てきている糸です。赤いオモテ糸で編むと赤い生地に、青いオモテ糸だと青い生地になり、それを起毛することで、"もちはだ"の暖かさを生み出せます。


ウラ糸は、オモテ糸の裏側に隠れて編みこまれている糸で、商品の表面からは基本的に見えません。ウラ糸の役割は「伸縮性」を生み出すことであり、"もちはだ"商品の生地のフィット感や伸縮性はウラ糸によって生み出されています。


・糸の編み方の模索編

ナイロン糸やポリエステル糸の活用でどうにか、くびれをつくれないかな〜と思った時に、一度ポリエステル糸をオモテ糸として活用した商品を編んだことがあるなと思いました。

しかし、ポリエステル糸では起毛できません。

ならば、ポリエステル糸と起毛できる糸を同時に編みこむ、「2種類の糸を1本のオモテ糸として編みこんでみたらどうだろう?」ものは試しと思い、機械に糸をセットし、くびれのフワッとするところに、この二種類を「混ぜた糸」を使用しました。

キュっとするところは従来通り(「一種類のオモテ糸+ゴム糸」)で編みこんでみるとちょっとだけくびれができていました。

編立直後の生地には予想以上に変化がなく、落胆しながらも縮絨工程の場所「縮絨場」にむかい、担当者の方にソックスを渡して縮絨加工してもらう間、再び試行錯誤を繰り返しました。

何度試しても、生地にはなかなか「くびれ」が生まれず、終業時間が近づく中で、今日は最後に「例の混ぜた糸の生地」がどうなったか確認だけしようと、縮絨場に行くと担当者の方が申し訳なさそうに生地を渡してくれました。


「この生地、何回も蒸気を当てたけど、真っすぐならへんかった...…」

目の前にあったのは「くびれ」のあるソックス生地でした。


私たち「これや~!!!」

あまりに予想外の結果で驚いた私たちは縮絨場で笑いながら喜んでいました。

なぜこのようなことが起きたのか?

それは、

1.ドモクの差

→くびれの"ふんわり"部分と"キュっと縮む"部分のドモクを一定にせずに変えることで、編み目の幅が変わり、生地の柔らかさや柔軟性に差がうまれて、くびれにつながる

2.ゴム糸の有無

→"キュっと縮む"部分にゴム糸を使うことで、縮絨加工した際の"ふんわり"部分との差を生み出すことができたので、くびれにつながった。

3.混ぜた糸

→ポリエステル糸と、起毛用糸を混ぜて編んだことで、"なんか"あまり縮まずに"ふんわり"感を保つことができた。


この3つが大きく影響していると考えられます。

3に関しては決定的な理由が確定しておらず、あまり詳しく言えませんが、ポリエステル糸と起毛用糸の素材の割合や組み合わせが一番大きな影響であり、2つを合わせてオモテ糸として編み込んだのが"ふんわり"部分の維持に繋がったのではないかと思います。

これにより「くびれ」問題は解決の兆しが見えました。

ただし、理想の形とはまだまだ遠く「もっとくびれを!」という欲が二人の中に芽生えていました。


「くびれ」問題の次は「蒸れにくい」問題です。

私たちは編んだ生地を、片っ端から履いていく作業を行いました。履いては編んで履いては編んでを繰り返し、くびれを維持しながらも、「蒸れにくい糸」を選んで編んでいきます。

最終的に、"ふんわり"部分に使う起毛用糸を比較的細い糸にすることで、分厚さをなくしながらも「伸縮性・蒸れにくさ・暖かさ」を維持することができ、機械開発において重要な「使用糸」が暫定的ではありますが、決定しました。

しかしながら現状では「蒸れにくさ」は肌感覚での確認だったので、生地の吸水性テストといった、試験を行う必要がありました。


「もっと”くびれ”を...」

今までのもちはだソックスはウラ糸は1商品あたり1種類で固定していました。理由は機械的な問題で、2種類のウラ糸の使用はその分、機械の動作を複雑にします。

複雑な動作は、それを実現するための開発コストと、生産段階に入った時の安定性を損なう可能性があり、基本的にウラ糸は1商品に1種類が設定されていました。

そりゃそうだと思います。今までのもちはだ商品は真っすぐなフォルムなので、わざわざウラ糸を2種類使う必要がありません。

でも今回は違います。よりくびれをわかりやすくして特徴的なフォルムを作るにはやはりウラ糸を2種類使用して、"ふんわり"部分にはポリエステル糸、"キュっと縮む"部分には蒸気で縮みやすいナイロン糸を使用したいとい思いがありました。

なので、実際に機械開発を行うときは、ウラ糸を2種類使えるように改造しようという意見で一致し、商品開発の日を迎えました。


・商品開発スタート編

実際に機械を開発する日がやってきました。やる気満々で開発予定の機械の前に立った私たちですが、初日から大きな問題が立ちはだかりました。

それは、このままではウラ糸を2種類使えないという問題でした。ワシオ株式会社の編み機は、糸が針に引っ掛けられて編みこまれます。

糸の軌道ルートを安定して針付近まで届けるために、糸の通り道、通称「糸道」があります。これは言わば、ウォータースライダーにおいて、最後に人が飛び出てくるところのようなもので、糸が管の中を通って針付近にとびだしてくるようにルート設定してあげる部品です。

なので、糸道の数=使用できる糸の本数になります。

「ラブレターソックス」を作るためには、糸の種類はゴムを抜いて、全部で6種類必要です。しかし目の前の機械では5種類しか使用できません。

どうしよう...と悩む私たちに上司がアドバイスをくださいました。

「鉄工所に相談して、糸道と周辺の部品の形状自体を変えて、6種類編めるようにすることはできる」

「ただし1週間はかかる」


地獄の選択です。日ごろお世話になっている鉄工所に依頼すれば、6種類編めるが、重要な部品を1週間手放すので、実質身動きが取れない状況が生まれます。ただでさえ1カ月という期間での開発というタイトなスケジュールにもかかわらず、1週間満足に動けないのは、かなりの痛手です。二人の意見は2つに分かれました。

🔵ぐっちー「 現状でなんとか頑張ろう!」

🔴いっちゃん 「鉄工所に相談して、6種類編めるようにしよう!」


🔴これが理想通りにする最善手なら、私の中ではそうするしかないと思っていました。私の理想に猪突猛進で突っ走る所と、こうと決めたらこうという自分の良いところでもあり、柔軟に考えるべきところを見逃すこともある性格のおかげで、この時の意見は分かれてしまったのかなと今となっては思います…

🔵正直、1週間かかると言われた時点で、かなりリスクが高いように思えました。

現状

・ある程度くびれはできている

・6種類にこだわらなくてもまだ試行錯誤の余地はある

・6種類編めるようになったとしても、生地が編める保証はない

・このレベルの改造は後戻りができない

これらを考えた時、ワシオの機械は

「かなり敏感で慎重に扱わないと、簡単に生地が編めなくなる」

ので、大幅に改造して1週間消費するのはあまりに現実的じゃないように感じ、鉄工所での改造の依頼には反対しました。

休憩時間に、どうすればいいのかと一人で考えている中で、改めて二人でプロジェクトを実行する意味について考えました。

僕は、母親譲りの心配性があるので、石橋は叩けるだけ叩いて渡りたい派です。だからこそ、今回の改造に対しては消極的に捉えていました。しかしながら、この会社に入っていろんな人と仕事をしていると、自分が今まで沢山「石橋を叩けるだけ叩いて、結局渡らない」という選択を取っていたかを実感しました。すこしでもリスクを感じればそこから離れるか、現状でなんとか「がんばる」という選択を取っていることに気づくと同時に、それは問題に対して向き合えているのだろうか?と思うようになりました。

せっかく部長と社長からこのような機会を頂けたことや、自分と違う人間性をもった人とのモノづくりという貴重な経験をいただいたので、ちゃんと課題と向き合うことにしました。この選択が「石橋を叩いて渡る」ということなのかなと今回のプロジェクトを通して考えました。こういったこともあり、改良案に賛成することにしました。


ただし、この一週間の期間を絶対に無駄にしてはいけないため、改良された機械が戻ってきた場合を想定して、それ以外の部品の開発に着手することにしました。


・部品「ドラム」の作成編

今回、改良することに決めた一番大きな理由は、鉄工所に改良する部品を提出したとしても、引き続き「ドラム」の作成ができるということです。

「ドラム」と言われてもわからない人しかいないと思うのでどのような部品か説明いたします。


大前提、ワシオの編み機とは

ワシオの編み機は、前半で述べた通りB式靴下他編機を改造しています。つまり昔の編み機を改造しているので基本的に歯車で動きます。モーターが回転しその回転が歯車に伝わる。歯車が回転を伝達していくことで、回転力を利用して機械が動きます。

これは、部品の「連動」による動作がワシオの機械の基本動作となるということです。

じゃあ、ドラムって何?

ではドラムはどんな役割をしているのでしょうか?

ドラムは言わば機械の「ブレーン」です。「ドラムを設定する=機械の動作のプログラムを作成する」といっても過言ではありません。

では歯車で動く機械のプログラムとはなんなのか?という疑問が生まれてくると思います。

オルゴールとドラムは似ている

例として「オルゴール」を想像してみてください。オルゴールが豊かな音色を奏でるのは、シリンダーと呼ばれる円柱の筒に針が無数に差し込まれており、その針がついたシリンダーが「回転」することで、針がセンサーに当たって音が生まれます。

でも針が当たっただけでは「単発の音「チンッ」」ですよね?

重要なのは音が連続して当たることで「音色、音楽」になっているところです。

つまり音の「連鎖」が起きています。

オルゴールの音の連鎖=ドラムにおける○○の連動

では、ドラムはどういうものなのでしょうか?

ドラムもオルゴールと同様にシリンダーのような円柱型の部品です。それが同じように横向きに設置されており、オルゴールと同様に回転しています。

オルゴールには「針」が付いていますが、ドラムには針の代わりに「カム」と呼ばれる鉄の突起物が取り付けられています。そして複数の「センサー」となる棒が横並びに取り付けられており、ドラムが回転するとこの突起物に「センサー棒」が当たります。

回転が進むと、当たった突起物の上を「センサー棒」が乗り上げます。

この「乗り上げる」というセンサー棒の「上下の動作」、それがシグナルとなり、「乗り上げたセンサー棒」に取り付けられた、任意の部品が動きます。つまりこのカムの配置によるセンサーの「上下の動作」による「連動」が部品の動作を実現します。

ではこの動作する部品の連動はどのような効果を生むのでしょうか?

簡単な例をいくつかあげます。


1.編む糸の種類の切替作業

2.針の動きを変更して、編み方を変える

3.起毛の有無を設定する

4.編みたい生地の「スタート」と「ゴール」を設定する。

上記の四つの例をみてわかるように、「カムの配置=実際の部品の動き=編みたい商品の設定」ということになります。カムの配置を変更することで「ソックス」か「タイツ」どちらを編むか設定できます。

以上のことから「ドラムの設定=カムの配置=機械の動作のプログラムを作成する」であるということがみなさんに伝わりましたでしょうか。


本題に戻りますが、私たちはドラムを作り始めました。ドラムに取り付ける「カム」は長さや角度などを研削することで変形させることができます。それによって動作のシグナルをだすタイミングやシグナルの継続時間を調整することができます。

普段なら、カムを研削しては実際に機械を稼働させて正しく動作して生地が編まれるか確認するという作業が行われますが、今回は一部の部品を鉄工所に渡していたので、動作確認のみで生地が適切に編まれるかの確認はできませんでした。

少し特殊な環境の中、私たちは工作室に籠ってひたすらカムを研削し、機械がどう動作するかを想像しながらドラムを作成して、結果的に1週間でドラムの作成が完成しました。

これは実質、ラブレターソックスを編める機械の設定を大まかに完了したことを意味しており、私たちは、かなり心とスケジュールに余裕をもって作業することができました。


・一週間後、改良され戻ってきた部品をはめてみよう編

一週間がたち、改良された部品が手元に届いた時は、二人ともとてもテンションが上がりました。これで6種類の糸を編める!今までにない機械を作れる!そう期待して部品を取り付けました。ドラムは先ほども述べた通りほとんど完成状態、あとは糸を実際に編みこんで生地が編めるか確認して微調整を繰り返すだけ。

こんなにも順調でいいのかなと思いながら実際に生地を編んで出来上がった生地を見てみると、そこにあったのはボロボロで穴が開いた生地でした。

あまりにもボロボロなので逆に笑いましたが、事態はそこまで楽観的にはいきません。

なぜこのようなボロボロの生地になったのか?それはラブレターソックスでは2種類のウラ糸を使用しているのが一番大きな原因です。

2種類のウラ糸だと、糸がすべて切り替わりなにも編まれない瞬間が生まれやすい


従来のもちはだソックスには2色で構成されているものがあります。それは基本的には2種類のオモテ糸と1種類のウラ糸で編みこまれており、オモテ糸の種類が切り替わることでソックスを2色に分けることができます。

糸が切り替わるという作業は「糸が編まれない瞬間」が生まれる可能性があると言うことになります。糸が編まれない瞬間が生まれたら生地に穴が開いてしまいます。でも2色構成の"もちはだ"製品は穴が開いていません。

理由はウラ糸が1種類だからです。オモテ糸が切り替わって糸が編まれない瞬間が生まれたとしても。ウラ糸がセーフティーネットになって、糸が常に編みこまれ続けています。なので穴が開かないようになっています。


では、ラブレターソックスはどうなるでしょうか?

このソックスはウラ糸も2種類あります。つまり、オモテ糸とウラ糸がどちらも2種類あるので、糸が切り替わるタイミングの時はどちらの糸も別の種類に切り替わります。

ということは...ウラ糸のセーフティーネットがないという状態が生まれるんです。

つまり少しでも微調整を怠ると「完全に糸がなにも編まれない瞬間」が生まれてすぐに穴が開きます。

私たちはドラムを作成できましたが、この微調整がまっっったくできていなかったので、生地が穴だらけになりました。


・微調整の繰り返し編

私たちは微調整を繰り返しました。鉄粉が工作室を飛び交うのを無視しながら「あーでもない、こーでもない」と悩みながらカムをひたすら研削しては取り付けて動作確認を行いました。

覚悟はしていましたが、あまりにも微調整が繊細でした。軍手をしていても手が真っ黒になり、もう限界...となったとき、ようやく完成しました。生地も穴が開かずに綺麗に編むことができ、完成した!!と思いました。


編まれたソックスを見た時、そこにあったのはしっかりと「くびれ」ができていたソックスでした。ただし、実際の見た目が想像以上に「ひょうたん型」なのを除けば...


🔵明らかに「ひょうたん」の形をしたソックスは、僕が期待したフォルムではありませんでした。"ふんわり"部分が2カ所あり、"キュっと縮む"部分が3カ所あるこの靴下は、どうみても「ひょうたん」です。

あと一つ"ふんわり"部分があれば「ひょうたんフォルム」から脱却できて「三色団子」のような、僕たちが理想とする形になるんだけどな~っと思っていながらも「さすがに今から作り直しは...」と思っていました。

「う~~ん...」

頭を悩ませていると。


🔴髙橋さん「三つめの"ふんわり"部分つくろ!!」


🔵髙橋さんの即決の判断に、一瞬度肝を抜かれましたが、正直ここまで来たならいけるとこまで行こうと思い、髙橋さんの即決力に乗っかりました。


現状の「ラブレターソックス」は切替動作が4回あります。ちなみに従来の"もちはだ"ソックスは1~2回です。

これが「三つめの"ふんわり"部分つくろ!」を実行した場合、6回になります。

そのためにはドラムの一部を作り直して、新しくカムを作る必要があります。

そうです。再び地獄の微調整タイムが幕を開けます。

私たちはこれがかなり急ピッチな作業が必要なことを認識していましたが、さすがに「ひょうたんフォルム」のソックスを「ラブレターソックス」としてお客様にお渡しするのは、本製品のコンセプトに反していると思ったため、再び工作室にこもり始めました。


ドラムを回転させられる回数は、機械ごとに決まりがあります。

2人でその決まった回数の中でどのように切り替えて、どのタイミングでこの動作をするかなど再び試行錯誤しながら、徐々に作業にも慣れ始め、予想以上の速さでドラムが再び完成し三つめの"ふんわり"部分が完成したと思った瞬間…

「バキッ」なにかが砕けるような音が鳴り機械が強制停止しました。

恐る恐るドラムを覗くと、カムの研削が甘く、センサー棒がカムに引っ掛かってしまいました。カムを取り外し、「せっかくつくったのにな〜」と笑いながら修正したカムを取り付けて機械を稼働してみると、機械の動作タイミングが完全にズレていました。

あまりにも理解が追い付かな状況の中、上司に助けを求めると、

上司「ドラム狂ってるやん」

始めは、何を言っているか分からなかったのですが、話を聞いているうちに、段々と事態の深刻さがわかり始めました。


・「ドラム狂い」ハプニング編

まずはオルゴールを参考に考えてみましょう

ドラム狂いってなんでしょうか?これを説明するためにもう一度「オルゴール」を例に説明します。

オルゴールの回転には「スタート」と「ゴ―ル」がありますよね?

これは「一曲」を演奏するためです。曲の始まりと終わりがあるように回転にも始点と終点があります。

実は"もちはだ"のドラムの回転にも始点と終点があります。理由はソックスなどを長時間編み続ける場合、長ーーい生地を編んでそれを裁断してソックスを作るよりも、ソックス片足分の長さの生地を、連続して編み続けるほうが効率的だからです。尚且つ、ソックスのくるぶし部分や、土踏まずの部分にゴム糸を編んで伸縮性とフィット感を作る場合は、「ソックス片足分の長さの生地」を編んでいる間に、固定のタイミングで、ゴム糸を編みこむ必要があります。

オルゴールが始点から回転し終点を迎えると「一曲分」演奏されるように、ドラムも始点から回転し終点を迎えると「一足分」編めたことになります。

その固定のタイミングを決めるのが、「ドラム」と「カム」です。

ここまでで、ドラムの回転にもオルゴールと同様に「始点と終点」があることがわかりました。


改めてドラム狂いって?

では改めてドラム狂いとは何でしょうか?簡単に言うと「始点がズレる」ということです。

オルゴールも始点がズレたら、初めの一音が変わるので曲の途中から始まりますよね?そうなるとちゃんと「一曲」演奏できなくなります。仮にこの始点のズレを直せなかったらどうしましょう?

「ズレた始点に合わせてもう一度針を刺し直す」必要があるのではないでしょうか?

ドラム狂いも同様です。

ドラムの回転の始点がズレると、全ての機械動作のタイミングがずれるので「一足分」の生地が編まれなくなります。ドラムは幅45cm以上直径15cm以上の鉄の筒です。ありえないくらい重いです。

これを取り外して、始点のズレを直すことは至難の業です。

つまり...カムの取り付けを一からやり直さないといけません。

これはこれまでの作業がすべて無駄になるということです。さっきまで談笑しながらもお互いに楽しみながら作業をしていた雰囲気は跡形もなく消え、お互い無言でただ、ドラムを眺めていました。


葬式状態の空気の中、上司から「少しだけのズレならまだ直せる」という助言がありました。正直、もうそこしか希望はありません。2週間目に突入し、残り2週間で商品化までもっていかないといけない、あまりにもタイトすぎるスケジュールで、0に戻って開発をリスタートするのはあまりにも無謀すぎます。

ドラム付近に取り付けられた「調節ネジ」の締め具合で、少しだけのタイミングのズレなら修正できると知り、ドキドキしながらもネジを締めてはゆっくりと回してドラム狂いが直ったか確認しました。

最終的にドラム狂いは最初に比べるとはるかに改善しましたが、0.01~5秒ぐらいのズレが直りませんでした。

でもこのくらいのズレなら、ゲームデータが消えて0からリスタートではなく、少し前のデータからリスタートくらいで済みそうでした。

調整が必要なカムを再び研削して生地を編むと、こんどはタイミングよく機械が動作して、ちゃんと綺麗な生地を編むことができました。


🔴本当にこのときは、上司の方のお陰で首の皮が一枚繋がった気持ちになったのを覚えています。


・「三つめの"ふんわり"部分つくろ!」の実現編

編まれた生地を見てみると「三つめの"ふんわり"部分」ができていました。先日までのひょうたん型の微妙なデザインではなく、そこにはかわいい三つの"ふんわり"部分がくびれによって強調された、これまでの"もちはだ"にはないデザインがありました。

初めて自分たちが想像していたデザインが形になった時はとても嬉しく、感動しました。ただ、

1."ふんわり"部分と"キュっと縮む"部分のサイズ感。

2.ソックス全体の長さ

3.実際に履いたらくるぶし上や、土踏まずの部分に来るはずの"キュっと縮む"部分の位置がズレている


以上のことがわかり、微調整が必要なことが判明しました。

「また微調整かい」、終わらない微調整を繰り返して、再び実際に編んでは履いて、を繰り返しました。

微調整に続く微調整を繰り返していく中で、ようやく納得のいく形が生まれました。


まーーだ終わらない微調整、糸の相性の模索

なんとか「ラブレターソックス」の形が完成したことで、あとは、生地を編む糸の種類が切り替わる部分、つまり「商品の色が切り替わる部分」にできる小さな穴を修正していく作業が残っていました。

これが、予想以上の強敵でした。

小さな穴は針一本分のサイズです。つまり0.001~5秒ぐらいの世界の調整を「カムの研削」という「肌感覚」による手作業の加工で合わせていかなければなりません。尚且つ、今回は6種類の糸を使っています。様々な糸が入れ替わり、部品が激しく切り替わる動作の中で、感覚でしか把握できないタイミングを逃さないように、カムを研削することで合わせていきます。

始めは穴が発生している個所を「二個目の"ふんわり"部分と"キュっと縮む"部分の間」などと呼び合っていましたが、段々と作業になれて試行錯誤が繰り返されるにつれて、"ふんわり"部分と"キュっと縮む"部分を数字で名付けして、「5と6の間一目落ち」などと「ラブレターソックス」の詳細を知る人にしかわからない言語が生まれていきました。

上司が他言語使用者を見るような目で、私たちの会話を眺めていたのを思い出します。


何度も起こる「ドラム狂い」

作業を続けていく中で、私たちは何度もカムを取り外しては研削し、機械を稼働させて利用の生地が編まれるか確認しました。

それは、ひたすらオルゴールの針を抜き差しして、理想の曲をつくる作業と同じであり、工作室は、研削したカムにより、これまでにないサイズの鉄粉の山ができていました。

カムの研削を続けていると次第に集中力は分散していき、研削が甘くなり始めることがあります。その甘さが原因で何度も「ガンッ」という音と共に「ドラム狂い」に合いました。そのたびに、焦りで汗を吹き出しながら「調整ネジ」で直しました。

次は気を付けようとしていても、ワシオの機械はとても気まぐれで敏感なので、急に不具合が発生します。ドラム狂いが起きたらその都度、調整ネジを回して「ドラムのズレ」をなくしていき、直せない分のズレは、カムを研削しなおすことで再調整する。少なくとも4回はドラム狂いが起きたのを覚えています。

無事、「ラブレターソックス」の形がほぼ確定と言える状態までやってきました。

そして、私たちに思わぬ吉報が訪れました。


・まさかの吸水性・蒸れにくい靴下の完成?編

営業担当の方が、私たちが事前に送った「ラブレターソックス」のサンプル生地を用いた吸水性テストの結果を持ってきてくださりました。

そこには、これまでの”もちはだ”の生地よりもはるかに高い吸水性が保証された結果用紙がありました。

実は、サンプル生地として提出したものは、オモテ糸を「起毛用と吸水速乾の糸」の二種類で編みこんだ生地で作成した「ラブレターソックス」でした。実際に生地に水を垂らすと、従来のもちはだソックスだと完全に水を弾き、水滴が沁み込むことなく生地にとどまりますが、ラブレターソックスの生地だとすんなりと沁み込んでいきました。

圧倒的な温かさと引き換えに、吸水性のなさが「もちはだソックス」の「蒸れやすい」という悩みを生み出していましたが、今回のラブレターソックスは暖かさを生み出す「ワシオ式パイル起毛」を守ったまま、吸水性を維持することができました。

「蒸れにくい”もちはだ”ソックス」の実現が現実的になり、「ラブレターソックス」は完成間近まで到達しましたが、まだ課題が残っていました


糸がめっちゃ喧嘩するんです

オモテ糸を「起毛用と吸水速乾の糸」の二種類で編みこむ案を正式に採用し、実際に数時間生地を編むことで、量産可能かどうかを確認している時、問題が発生しました。二種類の糸が生地に編みこまれる時に、糸がお互いにぶつかり合って暴れ出すことで、糸の軌道ルートからズレてしまい、針まで届かないので、生地が全く編めないという状況が発生しました。

せっかく、納得のいく「ラブレターソックス」ができたのに...

量産ができないのはかなり致命的です。

しかし、残された時間、糸の種類などを考えると、現状の糸が最善の組み合わせでした。何とかしてこの暴れる糸を鎮めないと...そう考えた私たちは糸を制御するための試行錯誤を始めました。


テンションの調整

糸を制御するためには、糸の「テンション」を調節する必要があります。

テンションとは糸が引き合う加減、簡単に言えば「糸の張り具合」でワシオではテンションを「強い / 弱い」で表現しています。糸を張りすぎる(強い)と、糸に負荷がかかるので千切れてしまいますし、生地の伸縮性も薄れます。

逆にテンションが弱いと、糸は弛みが生まれるので、絡みやすくなったり、生地の編み目が緩くなります。

テンションの調節は、もちはだ生地の品質を保つためにはかなり重要な役割を担っております。

実際に糸のテンションを調節するためには給糸装置(テンションコントロール)を使用します。これを調整することで、糸の張り具合を変更するのですが、何度調整してもうまくいきません。給糸装置だけに頼るのではなくて別の方法を模索する中で見つけたのは救世主”スポンジ”でした。

ワシオでは、糸のテンションがうまく調整できない時、稀に”スポンジ”を使うことがあります。スポンジに切れ目を入れて、そこに糸を通して機械を稼働させることで、スポンジが糸が暴れないように軌道ルートを制御してくれます。また霧吹きなどでスポンジを湿らすことで、複数の糸が湿度をもつことで暴れずにまとまりやすくなります。

このワシオ歴代職人の叡智を活かしてみようと考え、スポンジを活用したところ、かなり改善しました。ただし、時間が経過すると再び悪化するので、スポンジの取り付け場所の再検討を迫られました。

あーでもない、こーでもないと私たちはトライアンドエラーを繰り返し、上司の方々にもアドバイスを頂き、検討を重ねた結果一番糸が不安定になるところを見つけ、そこにスポンジを当てることにしました。

最終的に、安定して生地が編めるようになり、自分たちが納得のいく商品がついに完成しました!


・ラブレターソックスの完成と感謝

「ラブレターソックス」は部長と社長からの突然のお仕事依頼から始まり、短い期間の中で何とか間に合わせようと、自分たちで頭を捻りながら考えた商品です。普段からもちはだ商品をご愛用してくださるお客様に、「蒸れにくい”もちはだ”ソックス」を届けたいという思いでつくった「ラブレターソックス」は、最終提出日当日にようやく完成するほど、ギリギリまで試行錯誤を重ねました。

通常もちはだは、起毛が厚く、靴が履きにくい場合があるのですが、「ラブレターソックス」は、通常より厚手ではないので靴も履きやすいです。

厚手ではないため、通常より起毛が薄いですが保温性もきちんと兼ね備えている分、日中でも靴を履いて使用でき、プラスで蒸れにくい性能も重ねているので、着用時間中はずっと暖かく蒸れないソックスが実現できました。

実際に弊社の数名の方に「ラブレターソックス」を履いていただきましたが、みなさんからも好評を頂き、「履きやすい!」「蒸れにくい!」とのフィードバックを頂きました。

普段から”もちはだ”を愛用し、企画広報としても活動されている方々のお言葉にはかなりの信頼がありますし、実際私たちも「ラブレターソックス」を履いて仕事をしていると普段の”もちはだソックス”よりも蒸れにくいと感じております。

デザインは、今までにない"ふんわり"部分と"キュっと縮む"部分のくびれがある。可愛いフォルムで、もちはだソックスの筒型フォルムに慣れた皆さんにとってとても新鮮なものになるのではないかと思います。

もし、少しでも気になって実際に「ラブレターソックス」を購入していただいたのであれば、この「可愛いフォルム」と「履きやすさ」を実際に体験していただきたいです。

そして、少しでも私たちの思いが、この「ラブレターソックス」を手にとっていただいた皆さまに届けば幸いです。

そうして皆さまの気持ちも「ラブレターソックス」を通して、私たちに届き、この商品が私たちと皆さまにとって思いを伝え合えるラブレターのような存在にになることを願い、その事を糧に私たちも日々、技術の研鑽をしてまいります。

皆さんの「世界から寒いをなくす」日常を生み出すためにも今後とも精進いたしますので、何卒宜しくお願い致します。

                           林口・髙橋

 

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